ノート(あなたを聴く)
木立 悟





水のなかの糸を
口に含んではうたう
うたうままに
消えてゆく


今はひとりでなくなったものが
心に描くひとりきりの地に
あなたは戻りたくないのだろう
まばたきよりも
涙よりも速い雪を
見たくはないのだろう


誰も誰かを見ない夜にだけ
よろよろとよろよろと径をゆき
鏡に似たものすべてを憎み
目をそらし壊し踏みつけながら


あなたが見捨ててきた人々こそが
あなたを見捨てない人々だったのに
もう遅い
何もかも
もう遅い


雪の下の土に腕を入れ
凍えるか咲くか試すことは
しなくていいのだ
もうしなくていいのだ
死ななくていいのだ


だからどうしたというのだろう
いま地面の上に在るものが
すべて消え去るまでの数億年が
いつからはじまるというのだろう


自身を自身に映すものを
何もせずただ見つめている
何もない時間に向かい
微笑んでいる


針や硝子が舌から消えてなお
ひたすら吹雪に打たれながら
それでもあなたはうたいはじめた
これまでを今をこれからを























自由詩 ノート(あなたを聴く) Copyright 木立 悟 2013-02-08 03:01:10
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
ノート