降り来る言葉 LXIII
木立 悟







歩みの内に散る色が
音を音に書きとめる
文字と文字と文字の間に
瞼と瞳を忘れながら


夜の窓の
二重の背
霧は霧を咬む
陰を 淡くする


午後とこがね
こがねの血
挿絵のような
動き 動き無さ


空の氷を見つめる子
指のひとつひとつに踊る曇
手のひらに書かれた
鉛の地図


誰も見ない機械を見るものが
うたをひとつ重ねゆく
光をすぎても
見える光


建物 拒絶
祝福の無さ
白と黒の
片目の広さ


浪に洗われ
岩は指になり
凍えながら 壊死しにながら
音になれない稲妻を指す


袋と痛み
鍵盤と息
口のなかの 冬や冬
聴くものすべてを 紅く照らす


水を灼き 陰を灼く
ひとりの惑星
冬が巡るたび
失う声


道に道を貼り
陰影を偽り
空を持ち上げるたったひとつの
幼い樹をくすぐる


柱は柱の上に立ち
土の波紋をあざやかにする
離れる空を離れるままに
ひろげた指をあきらかにする


夜を分ける灯
うなじと水
暗さ 冷たさ
行き場の無さ


曇のこがね
砂のこがね
夜へ夜へ 息を吹き
水と水色を遠去ける


鉱が鉱を塗り路地になり
ひとりの冬を連れてゆく
音の背
はじまりのない波


幽霊の扉から冬の樹へ
白も黒も青も茂り
水を縦に持ち上げている
どこまでも 鉱の鼓動の径


まばたきの窓
白い顔
壁を径を照らす火は
足跡に足跡にわだかまる


弦に逆らう音ばかり
指は見つめ 荒れ野を抄う
冬の背のぼる
小さな蒼


星座と星座のあやとりをほどき
獣の足跡のつづく先へ
つづきつづける無言と無言
やがて粉になるものすべて


人ではない人
街ではない街に棲み
こがねを吸い 吐きながら
音は生の手綱を引いてゆく
































自由詩 降り来る言葉 LXIII Copyright 木立 悟 2013-02-07 09:23:06
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