針金ハンガー
そらの珊瑚

備え付けの
グレイのロッカーの扉を開けると
中に針金のハンガーが二本
ぶらさがっていた

わたしの前に
入院していた人が
使って残しておいたものだろうか

ただ一本の針金からできている
いかつい肩
ねじれた首
はてなのかたちの顔がある
足はないから どこへもいけず
こんなところにいるのです
さあ、今度はあなたの番ですよ、というように
会うこともないであろう
見ずしらずのもとの住人の
やさしげな顔に肉付けされていく
あとから来る人へ
贈り物と呼べないような
ささやかな贈り物

病室からは池が見え
のんびりと水鳥が浮かんでいた
いつかどこかでみた
名もないあおい水彩画のようで
わたしは
春まだ浅い淵で
鑑賞に訪れた客のひとりになった


自由詩 針金ハンガー Copyright そらの珊瑚 2013-02-07 08:59:59
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