針金ハンガー
そらの珊瑚
備え付けの
グレイのロッカーの扉を開けると
中に針金のハンガーが二本
ぶらさがっていた
わたしの前に
入院していた人が
使って残しておいたものだろうか
ただ一本の針金からできている
いかつい肩
ねじれた首
はてなのかたちの顔がある
足はないから どこへもいけず
こんなところにいるのです
さあ、今度はあなたの番ですよ、というように
会うこともないであろう
見ずしらずのもとの住人の
やさしげな顔に肉付けされていく
あとから来る人へ
贈り物と呼べないような
ささやかな贈り物
病室からは池が見え
のんびりと水鳥が浮かんでいた
いつかどこかでみた
名もないあおい水彩画のようで
わたしは
春まだ浅い淵で
鑑賞に訪れた客のひとりになった