毛と肉について
salco

男は毛まで立っている
口の周囲を
まるで鉱物よろしく皮膚を押し上げて伸び
 (しかしありがたい事に
  神はそれを顔下半分のみに留めて下さった)
陽に透け腕を覆っている
何と安物の古毛布のように

一体に人類の体毛は
殊さら脆弱な柔らかい部分を最小限
防護する為に密生しているというが
腹を下って
ごっつい脚まで守っているのには恐れ入る

筋肉の余計な発達も
体毛の余分な繁茂も
これ全てズボンの中のお宝のお蔭だが
何故だか母系遺伝子と男性ホルモンは
頭部のみこれを減退させるという
まさにハゲタカの謎ともいうべき
一大パラドックスを人類は有している
 (死肉に突っ込む頭から雑菌の繁殖を防ぐ為だが
  人間の男はどこに頭を突っ込むのだ?)

人類世界の文化文明の進捗発展を担い
地球の命運をまで握るに至った
思惟思弁の司令塔たる脳みその容器である
頭蓋骨をこそ防護すべきであるにも関わらず
西暦年数と正比例するストレスと化合して
カツラと帽子の需要を飛躍的に伸ばすこの現象を
未だ不治の病として克服し得ぬ
半分人類の苦悩はいかばかりであろう
 (信頼に足る資料によれば
  煩悶の人イエスや仏陀ですらハゲではなかった)

しかし男が讃美しオカマも夢に見る
女の乳房や尻や四肢や肌が芸術家にとって
甘美な妄想を掻き立て
亦驚嘆すべき優美さを持つ造形であるように
男の常に一回り以上の優位な骨格も
硬い尻も発達した全身の筋肉も
そして濃く深い体毛も
女が讃美しオカマも焦がれる美なのであり
ぜひ賞味したい造形であって
全てパンツの中でこちらを見ているナキウサギに因を発する、
まことに愛すべき現象であるに変わりはない


自由詩 毛と肉について Copyright salco 2013-02-06 23:11:58
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