晩秋
草野大悟

トンボになって飛んでいた。
桜の木もすっかり葉を落とすころに。

翅は なんにも思考せずに
ただ
トンボのこれからをひたすら羽ばたいていた。

大きな樹の小さな木陰で
すこしばかりの休息をとっていると
いきなり
あの漱石先生が顔を出して
「門」とか「それから」とか
うるさく説教しだしたから
鬱陶しくなって
また
飛ぶことにした。

とても広い川の上を飛んでいると
おおきな岩の上にノボリが見えたので
下降してそれをよく見てみると
「空あります」
そう書かれていた。

だれが空を商っているのか
おおいに興味があったので
ほとんど一週間 飲まず食わずで
ホバーリングしていた。

もう諦めかけていた その時
のっそり、と
「空」が顔を出した。
目があったぼくは
吸い込まれるようにそいつを買ってしまった。

それからぼくは
なぜだかそいつと一緒に
ぼくの中のぼくへと
旅立っていったのだった。
 


自由詩 晩秋 Copyright 草野大悟 2013-02-06 21:39:17
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