海の破断面
佐野権太
海の見える場所に
足を止めた
海岸線は弓なりに身をそらせ
波を抱えてふるえている
少女が砂に座っている
束ねられた長い髪
白い顎の輪郭が
背景の蒼を深めている
(うまくいってる?
包み込むような母性
その不思議なアンバランスに
心音を撫でられる
鳥、
心地よい夢の正体を確かめるときの
白濁した曖昧に
小さく溶けてゆく
羽
うまくいってる、
ことにしようと思う
(足りないものは、なに?
あるような気がしていた
が、どれもこれも
たいしたものではなかった
羊水、
所属を赦す
あたたかな湿度
まるく畳まれた手足の身じろぎは
甘い痛みとなって
深く
取り込まれてゆくのだろう
僕はいったい
だれを救えるのだろう
もう少しでこぼれそうな
とりとめのない表面張力を抱えて
わずかにカーブしながら後退してゆく
軌条、
そのつなぎめを跨ぐ鼓動が
次第に浮かびあがってくる
なかに
ただ鮮明な
少女の角度