海の破断面
佐野権太

海の見える場所に
足を止めた
海岸線は弓なりに身をそらせ
波を抱えてふるえている

少女が砂に座っている
束ねられた長い髪
白い顎の輪郭が
背景の蒼を深めている

(うまくいってる?

包み込むような母性
その不思議なアンバランスに
心音を撫でられる

鳥、
心地よい夢の正体を確かめるときの
白濁した曖昧に
小さく溶けてゆく


うまくいってる、
ことにしようと思う

(足りないものは、なに?

あるような気がしていた
が、どれもこれも
たいしたものではなかった

羊水、
所属を赦す
あたたかな湿度
まるく畳まれた手足の身じろぎは
甘い痛みとなって
深く
取り込まれてゆくのだろう

僕はいったい
だれを救えるのだろう

もう少しでこぼれそうな
とりとめのない表面張力を抱えて
わずかにカーブしながら後退してゆく
軌条、
そのつなぎめを跨ぐ鼓動が
次第に浮かびあがってくる
なかに
ただ鮮明な
少女の角度







自由詩 海の破断面 Copyright 佐野権太 2013-02-05 12:39:23
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