⇄(複線)
凛々椿
さよなら
東口にて
ひかりの複線は尾を散らし
僕を底知れぬやみへとおいてゆく
風つよく
背筋から心臓へ
夜更けにはきっと雪になるだろう
新月の雪だよ
青白いはかなさだ
照らされることのないうつくしさ
黙々と降りつむばかりで
地に染む音も
秘めごとのよう
コーヒーの匂いが少し恋しくて
といっても僕はコーヒーは全く飲めなくてね
いつもいっしょだった人と
百番地の片隅
いつも同じ喫茶室で
みどりのバンダナを頭に巻いた白ひげのマスターと
ずらりと並ぶ雑誌や新聞や
ツバキの鉢花
火曜日のビジネス街の闊歩とともに
くゆる匂いに少しだけ
嫉妬を
右足を摺りながらひかりを追う
東西連絡通路
E7出入口の表示がオレンジと黒の点滅を繰り返している
やみとの共存
その選択を嘆くこともなく
左に平穏
右に濁る海
直進は世つなを渡る道化師で
下に退化
くねる五線譜のように合い別れつらなり絡げ
うしなわれた時間やあいしていたもの
取り返せないもの
視線の先にあったもの
ほしいと 指先をめいっぱい広げてやみくもにちぎるもの
ひととして生まれてずっと苦しいのは
無数の思いと
無数の価値を抱くことをやめられないからなのよ
と
かなたの君が笑う
僕はコーヒーは全く飲めなくてね
百番地の片隅
いつも同じ喫茶室で
少しだけ君に
嫉妬を
さようなら
東口にて
いつだったか
ともに耳にしたあいのうた
すべてはそこに 苦みは添えられていた
右足を摺りながらひかりを追う
東西連絡通路
E7出入口の表示はかわらずオレンジと黒の点滅を繰り返している
今宵は新月の雪だよ
君は見つめるだろうか
青白く
照らされることのないうつくしさを
黙々と降りつむばかりの
血に染む音は
浮き沈むこころの
秘めごとに似ている