風の通り道
カワグチタケシ

風は光にあこがれる
道が光る
海が光る
光が光る

風は光を持たない
風は色を持たない

わたしたちが見ているのは
風ではなく
風の通った跡
風の通り道
風の過去の姿

それでも

わたし達は風を知覚している。見て、聞いて、肌で。
時には、季節の花の開花を知ることで。
何かの仕事に引継ぎをされて、
風はわたし達に知覚される。

風は内面にあこがれる
笑う人の
不機嫌な人の
頬に
風が触れていく
駱駝の背中に
波立つ水面に
風が触れていく

風は内面には届かない

それでも

わたし達は風を知覚している。
想像することによって。
かつての風の名残りが肺に届き
酸素は血液に吸収され
心臓を経由して脳に届く

風の通り道

紛争地帯を通り抜ける風が
旗をなびかせ
廃墟と化したモスクの
埃っぽい壁面に付着した
血液を乾かしていく

風の通り道

東京メトロ有楽町線豊洲駅
改札を強い風が通り抜ける
外壁を持たない
地下構造物
光が届かない
この場所にも
風の通り道がある

メトロの出口
視界が開ける
金木犀が香る
そこに
風の通り道がある


    Contains sample from N.Nemoto

 


自由詩 風の通り道 Copyright カワグチタケシ 2013-02-03 01:20:17
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