風の通り道
カワグチタケシ
風は光にあこがれる
道が光る
海が光る
光が光る
風は光を持たない
風は色を持たない
わたしたちが見ているのは
風ではなく
風の通った跡
風の通り道
風の過去の姿
それでも
わたし達は風を知覚している。見て、聞いて、肌で。
時には、季節の花の開花を知ることで。
何かの仕事に引継ぎをされて、
風はわたし達に知覚される。
風は内面にあこがれる
笑う人の
不機嫌な人の
頬に
風が触れていく
駱駝の背中に
波立つ水面に
風が触れていく
が
風は内面には届かない
それでも
わたし達は風を知覚している。
想像することによって。
かつての風の名残りが肺に届き
酸素は血液に吸収され
心臓を経由して脳に届く
風の通り道
紛争地帯を通り抜ける風が
旗をなびかせ
廃墟と化したモスクの
埃っぽい壁面に付着した
血液を乾かしていく
風の通り道
東京メトロ有楽町線豊洲駅
改札を強い風が通り抜ける
外壁を持たない
地下構造物
光が届かない
この場所にも
風の通り道がある
メトロの出口
視界が開ける
金木犀が香る
そこに
風の通り道がある
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