少年A  
イナエ

初めて会ったきみはあどけない顔の
いたずら好きな中学生だった
母子家庭の一人っ子だったきみは
わたしの中に父を見たのか
以来様々な報告をしてくれたが…
自分をコントロールできない意志の弱さと
愛嬌の良さが災いを招く子だった

手先の器用なきみは
オモチャのピストルを改造したこと
修学旅行中にそれを持ちだした不良グループが人を脅して
旅行が終わって改札口を出ると少年係に連行されたこと
工業高校に合格したが
「危険なもの作るとヤバイから」と辞退したことなど…

 知人に会う約束に遅れて
 路地を急ぐ私をふさぐようにバイクが止まる  
 いらだつわたしに
 ドライバーはフルヘル脱いで
 いたづらっこの笑顔をみせた
 「免許取ったか」怒鳴るわたしに
 きみはひとこと 言葉を残してにげ去った
 「おれ頭悪から…」

宇宙の片隅の小さな星の交差点
たくさんの車も人もすれ違っていくのに
どうして人は激しい出会いをするのだろう

きみの前に飛び出た少女が跳ね上がったとき
きみのバイクも乗用車の前を滑っていた

翌日
きみは十二階のベランダから空へ飛んだ
「ここにいると みんなに迷惑かかるから」と…

きみは羽ばたくことなく人生を閉じたけれど
わたしの中では
ひしゃげた顔でバイクに乗って
いまも駆け回っている  




自由詩 少年A   Copyright イナエ 2013-02-02 13:44:50
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