あのバスはきっと僕だけを無視している
カマキリ

この路線はもう天国へ連れていってくれないのだろうけど
わりとひらけた停留所で緑色の傘が落ちているのを見た
空き缶一つ見当たらない不自然な砦で
小銭の音が響いているだけ

七年ぶりにハチ公のため息が聞ける季節に
それこそなんの前触れもなく地獄のフタが音を立ててずれた
名刺の尖った部分くらいしか武器はなく
頼りない背中を今川焼き屋台のおじさんに笑われてしまった

獣よりも愚かに、僕らは手を取り合うことを選択しただけ
ちょっと湿ったあの接地面が妙に心地よかっただけ

やすやすと未知にたわむれる沈んだ心が欲しかった
機嫌だけが数値化されるヘルメットにどんな意味があったのだろうか
量り売りの、グラムいくらの、人を傷つける言葉よりも
擦りむいた跡が消えないことを願ってしまった

死神たちは積み木をくずして遊んでいる
自動販売機の光が朝に紛れていくのをじっと眺めていた


自由詩 あのバスはきっと僕だけを無視している Copyright カマキリ 2013-02-02 02:24:58
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