虹色の風
草野大悟

森のなかで消えてゆく向日葵のため息が
とてもせつなく感じられるのであれば
きみよ
虹色の風をもういちど友にすることだ

光には影があり影のない光はない、と
たくさんの人が言うけれど
影のない光や光のない影だって、そう確かにあるのだ

オゾンの香りが漂う 山とよばれるところで
わたしたちは はじめて ひとつになったけれど
その香りがオーロラと同じ動きをしていることに
今日の今日まで気づかなかった

わたしたちは 毎日 どうでもいい事柄を相手に
むしろ操られ気味に暮らしているけれど
隠され続けている真実を
おあいにくさま
よーく知っている


明日 わたしたちは山に登る
次の日 わたしたちは海に潜る
また 次の日 わたしたちは風に乗る

ミストのなかを
ゆくえをなくした幽霊のように彷徨っているわたしたちが
血の色に染まってやせ細る初夏
向日葵は輝きを奪われ
ただ 白く横たわっている

ぱたぱた ぱたぱた
  ぱたぱた ぱたぱた
 ぱたぱた              ぱたぱた
        ぱたぱた             ぱた
ぱたぱたぱた

ミストの漂う樹海で あなたは 遠い風を想うのだろうか
向日葵のころ あなたは 遠い遠い記憶を書き綴っていたのだろうか
向日葵のころ あなたが初めて書いた恋文は いまでも空に浮かんでいるのだろうか
蝶は
その恋文を探して今日も青空へと飛ぶのだろうか

夢は年を重ねるごとにやせ細っているし、夢の子供はうまれはしない、と
おせっかいな雲がくり返すとき
明日からの風は
昨日までの風と
激しくぶつかり合い 渦巻いて
今日という日を創っていることを
わたしたちは充分に知っている

風がふく
 風がながれる
  風がなく
わたしたちの風は
いつも
風を
探している
 ふく風は
  たぶん
   あなただろう
ながれるのは
 間違いなく
  わたしだ
なく風は
 おそらく
  わたしたちだろう
向日葵のころ
ふたりは
風であった、と
きみが
きょう
断言した


とことこにこにこ歩いてくるのは初めての春だ
その後ろを両手で庇いながら吹いているのは桜
そのまた後ろで無表情の手を差しのべている永遠
永遠が明日を提示したその日 春は過去と未来がぶつかり合い渦巻く今を
魔法のように約束するのだ

ポキン、と音立てて崩れてゆく血たちの空が
いつまでも青くあるように
きみよ
いつまでも
そう いつまでも
虹色の風であれ

 


自由詩 虹色の風 Copyright 草野大悟 2013-01-31 22:27:07
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