青い指
赤青黄
蛍を見たことがないから
あの光をしらないから
どうしても僕らは
つめを齧ることがやめられなくなる
――前時代の定義を簡単に説明できる程、僕の脳は若くないんだ
少年達は夜の都会の空間に蛍を見た
という錯覚を覚えて
虫網を振りかざすが
中に入るのは親指程の蛾、蝉、抜け殻、
の
いずれかであった
――走る意味がないことに苛立ちを覚えられない、夏
歯磨きを一週間し忘れた田舎の少年は
ふと歯茎が血を吹き出したことに違和感を覚え
夜
寝床から起きだし
青い月の光を浴びに野外へ足を運ぶ
街頭に蛾は群がるのに
なぜ月に蝶は群がらないのかと
時々少年は不思議に思う
人差し指を月光に透かし
夜が更けるのを待つ
疼きは段々と痛みを重ねて少年の歯茎を貪る
その痛みが頂点に達したとき
少年の人差し指は青に染まったのだった
その指先から青い羽を持つ蝶が幾つも飛び出していく
――彼らはどこに行くのだろうか
少年が答えを聞く前に蝶は鳥となり
鳥は一つの星となり宇宙へと飛散し
最後には流れ星となり
天球に降り注ぐのだった
だが、
流星の光は淡く揺らぐ月の光に阻まれ
その効力は普段の半分にも満たなかった
指は相変わらず青を燈し
やがて月が気を変え
雲に隠れ
いなくなってからも
人差し指は、青――
―――空蝉を敷き詰めた虫籠に火を付けて燃やせ
あらゆる少年達が虫籠を肩に掛け
夜を徘徊していた
町中のあらゆる電信柱には無数の虫の殻がへばりつき
都会は黒い影に覆われ
月は月食を始める
青い指を持つ少年達は
切れた唇から流れた血を空に浮かし
それらを空中のある一点に集めていた
少年達は想像を開始する
脳裏に記憶されたあの蛍の光を
人差し指の先端に蘇らせるのだ
そうすればこの世界の異常の全てが
終わりに近づくことを
知っていたから
数え切れぬ星星から降り注ぐ生命のスコールに後押しされて
光は空中分解をきたし
存在で覆いつくされたあらゆるノイズの影が
激しいスパークを始める
喉を通る唾を飲み干す前に
歯茎から流れる血が地面に吐き出される前に
少年達は
自らの夜を脱ぎ捨てた