凍てつく花  ー病床の父にー
Lucy

                   
厳寒のなかで花は枯れることができない
雪をかぶり凍てつきながら
己の色を発し続ける
夢見るように

生きることと
夢を見ることとは違う
そういう意味では
あなたはすでに生きてはいないのか

例えば
管で直接胃に栄養を流し込み
消化を強いられる終末期医療の患者

花が枯れるのは
凍てつく寒さが緩む時だ
冬が去り
春が新しい命をはぐくむ時

雪の下に咲き残った花たちの
みじろぎもせず発色するだけの
冬の日々
それは厳密には生ではなく
延期された死なのか

人生に 有意義な時間と
無意味な時間があるというなら
引き延ばされたあなたの冬は
無駄な時間と呼ばれるのか

手足を動かす自由も
食べる喜びも失った今
あなたは
微笑んでいる
娘の名前も孫の名前も
言えないけれど
親しい者たちの訪問に
心からの笑顔で応える

これが生でなくてなんだろう

管に繋がれた病室の暗がりに
冬の花のように光る
あなたの微笑み


自由詩 凍てつく花  ー病床の父にー Copyright Lucy 2013-01-28 20:42:30
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