昇華する精霊たち
within

 安寧を揺るがすのは憂鬱。それなら感覚を切断せよ。明るみに目を塞がれ視界が消える。唇から血がしたたる。野獣のような目つきで、鋼鉄に潰されようと、立ち止まらない。ソウ、彼はゆく者、帰る者ではナイ。夜、目深にかぶった帽子の下で画策する。Future そして、Figure. 忘れられた名前は、どこで消失したのか。それさえもが枝先の芽を撫でる。

 息の上がった走者は、走ることをやめられず、ひたすらランナーズハイを追い求める。赤い風が黄色い風を押し返す。石畳の通りは建物と建物の間に蜘蛛の巣を張るように伸びている。立ち止まらずに走り続ける。ゴールなんてない。行方知れずの父親のようにこのまま蒸発してしまおうか。得意なのは夢想。現実はまるでついてこない。今日も新聞配達が来る。そして眠る。こんな生活に未練がましく固執してる自分が嫌になる。嫌悪ばかりの毎日に荒む。所詮は下衆の乱れうち。稼ぎもないのに夢をみる。けずられていく。脂肪も筋肉も削られて、白い骨が剥き出しになる。卑屈にうつむく毎日に、けずられていく。うごめく腸は今日もせっせと吸収して、吐き出す。

 虫、暗がりに潜む。卵を腹に抱え、散乱する。拡散する。世代を越え、新たな形を得る。遊牧民になったつもりで犬を連れ、住処を捨てる。色彩に酔い、耐えられず、道端で吐く。
コギト・エルゴ・スム。ここに新しい発見などない。空白の空に舞い上がる窒素酸化物。絶え間ない失語。熱を奪われかじかむ指を揉み合わせる。健忘症の犬が猫におびえる。暖かい布団の中で絶望する真似事をしていたことを思い出す。気色の悪い皮膚を脱ぎたくて、もがき苦しむ。季節が変わるたびに、声も変わる。昇華する精霊たちが目の前の川を跳ねていく。

 n。わたしにはわからない。この島の呪いの秘密が。内にありて、外にあるもの。この島の精霊たちの息遣い。市場に人が集まる。いつの間にか人が減っている。皆、流れていく。もう得ることはないのか。静かに鴎が飛んでくる。足元に近づいては飛んでいく。深き海溝が待っている。白き糸で紡がれた闇。失うのも仕方なきこと。手紙を綴る。全ては意思のない動き。放たれた石つぶては波紋を結ぶ。消えるたびに訪れる美しさ。ハイフンで繋がれた愛情。足がもつれ、転びそうになる。先に言葉が転倒する。クジラの寝息が聞こえる。夜が明けるまで、ひっそりと燃える火を絶やさぬよう守り続ける。どうかこの暗闇から弱き我らを守りたまえ。

おはよう。


自由詩 昇華する精霊たち Copyright within 2013-01-27 09:40:41
notebook Home