メモ
はるな


心地好いもの。朝のコーヒー、牛乳の存在、波のあわ立ち。登校中の小学生のさえずり、猫のあくび、晴れた日の窓のそば。日曜日の心臓の音、プラスチックの静謐、枯れた木の肌。
心躍るもの。挑戦的なメイク、踵の高い靴、あたらしい女の子と男の子たち。ライブハウスのうすっぺらいアルコール、楽器のからむ音。手帳の赤いしるし、あたらしいピアス、夜、夫が階段を上ってうちへ近づいてくる気配。
わたしを勇気づけるもの。夜の街、今までに得たいくつかの言葉、わたし自身の身体、鏡、ポータブル・ミュージック・プレイヤー、煙草、指輪たち、赤い爪、出かけてゆく場所にいる人々との記憶。
かつて欲しかったもの。群衆、そしてそのなかにあるわたしと、窓、それから扉。手に入れるやりかたさえ見えずに、ただ立ち尽くしたもの。
親しいもの。不安。壁、灰色の部屋。やわらかさ、ぬるさ。
遠のいていくもの。
近づくようでいて、遠のいているもの。遠のくようでいて、いつのまにかまたそこへあるもの。あるいはそのすべて。すべて。



散文(批評随筆小説等) メモ Copyright はるな 2013-01-26 16:51:00
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