よごれちまったアルマーニ
不老産兄弟

あれからどれだけの年月がたったことだろう
まだよちよちあるきだったひとしを連れて
高円寺から鷺宮をよく往復したもんだ
理由はよくわからない
暇さえあれば高円寺から鷺宮を往復していた
俺が物心ついた時から
高円寺から鷺宮を往復していた気がする
高南通りが出来て間もないころ
チンドン屋が大好きだった俺は
駅前で見かけるその奇妙な集団が
どこから来てどこへ行ってしまうのか
そんな好奇心から町中を探し回ったこととなにか関係がありそうだ
ひとしは鼻水をたらしたハナタレ小僧で
駅前でティッシュなんかもらえない時代だったから
俺の少ない給料はほとんどやつの鼻水と共にながれてっちまった
雨の日も風の日も俺とひとしは
高円寺から鷺宮を毎日往復した
昨日のことのように覚えてる
駄菓子屋の前を通るときは憂鬱だった
店にならんだ綺麗な菓子に興味を示すひとしに
貧乏していた俺は飴玉ひとつ買ってやれなかった
足をのばして東京競馬場へ行くときも
俺は何度あいつと約束したことだろう
帰りにアイスクリーム買ってやるぞと
結局俺は今でも約束を守れぬままだ
そうだ
決して忘れることが出来ないあの日の話しをしよう
いつものように高円寺から鷺宮を往復していた時
雨が降り出したのでひとしを背負って家路に向かって俺はひた走った
水溜りが出来始めていたその横を通り過ぎようとした時
後ろから追い越していった自転車が猛スピードでその水溜りを踏んでいった
おかげで俺のアルマーニには泥がはね
ひとしのアルマーニは何故かしわだらけになっていた
なあひとし
覚えているか

お前もでかくなったな


未詩・独白 よごれちまったアルマーニ Copyright 不老産兄弟 2004-12-22 12:45:54
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