冬と熱
木立 悟





無いものが
楽譜の床を舞っている
壁のなかに踊るもの
羽に逃れ 曇を巡る


夜の山のむこうから
横顔が昇りくる
黄色に巨きく
振り向きながら 巨きく


泡のように終わりはじまる
真昼だけが上から見ている
屋根から路地へ
水は駆ける


冬は傾き
無言に等しく
熱のままの熱
糸の夜を聴く


戴くものの失い冠が
水の後ろにまたたいている
朝と氷
こだまする色


架空の耳
夜てらす夜
木靴を聴く
多くの 閉じた目


青を置いて
空は降りる
音の重さ
忘れられた家


倒れる曇を浴びつづけ
傷の日々は日々のまま
より低い地へ消えてゆく
虚ろな水の 約束ごと


白と黒に震え
あとは口をつぐんでいる
午後でも真昼でも冬でもあるもの
熱を足元に沈めるもの


指より小さな鉱の花が
無い空の色にまばたいている
雪に埋もれた馬車の配置
海から海を引き抜く人の手


またひとつ曇は倒れ
夜に重なる
広い花の
広い無言


水をすくい葉をすくい
影をすくい空をすくう
とどまらぬものを他に手わたして
舞うものは 行方なきものは
ふたたび戴冠者をさがしにゆく



























自由詩 冬と熱 Copyright 木立 悟 2013-01-25 23:58:16
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