卵の音
服部 剛
年の瀬の上野公園は
家族づれの人々で賑わい
僕等は3人で
枯れた葦の間に煌く
不忍池の周囲を歩いた
ゆくあてもないような僕等の歩みは
本郷へと進み
詩友Fの朗らかな顔に
何故かこの胸は少し、痛んだ
本郷3丁目駅の近くにある
「麦」という名曲喫茶の地下に入り
昼食を終えた頃――
ようやく僕は、口を開いた
「今日3人で顔をあわせるのは・・・」
言いかけたところで
詩友Rは横から
「はっとりんはwonder-wordsを卒業します」
詩友Fは思わず
「お、おめでとう」と、呟いた。
それから僕等は3人で
ゆず茶を
クリームソーダを
ブレンド珈琲を
それぞれに啜りつつ
古事記について
明治維新について
戦後について
心の病んだこの国について
そしてPoetryについて
3時間の穏やかな討議をした
*
額縁のモーツァルトは
思案げに俯いていた――
*
「はっとりん、俺等は歩いていくよ」
「麦」を出て、地上にあがった
丸の内線の改札で
詩友FとRとがっしり握手して
静かな魂の震えるままに
稲穂になった僕は頭を垂れた――
ふたりの背中が薄闇に、遠のいていった
僕は改札の中へ、入った
*
ホームに滑りこんできた
地下鉄のドアがゆっくり、閉まる。
世界の何処からか
あたらしい卵の割れる音が、聴こえた