ケモノミチ
月形半分子


ハライタマエ キヨメタマエ

この深くて狭い川は何を流す川だろう
いや、川ですらないこの闇の濃さ
私は落ちていく 落ちているのだ
剃刀を舐める時のように
私の背中を恐怖が焼きつづける
この先でケダモノが口を開けて待っているとでもいうのか
足掻くほど容赦なく生臭いヌメリが鼻からも口からも入りこむ
私は食われているのか、食らっているのか


ハライタマエ キヨメタマエ
何だこの川は
何を流す川なのだ
いや、川ですらないこの熱さ
私の体が突然魚のように跳びはねた時
ハラワタの臭いが力任せに私の肺に捩込まれる
私は泣く 激しく泣く
ひどい臭いのする私を洗う者がいる
血肉の臭いのとれぬ私を抱いて離さぬ者がいる

ハライタマエ キヨメタマエ
私は何の川を流れてきたのだろう
いや、あれは川ですらないケモノミチ
私は生まれてきたのだ
やがて産みもしよう
不浄と穢れを流す川ですらないミチで
命が野蛮なままならば
恐れる事も忘れよう



自由詩 ケモノミチ Copyright 月形半分子 2013-01-25 02:20:36
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