わずらい
月形半分子

ああ、これは病気でござりましょうか

寒いばかりの夜な夜な、炊くアルミ鍋は

今日も明日も貧しい菜を煮るだけでして

月がでようが、隠れようが

見ているものひとりいないときたら

これはもう

お念仏の聞こえる夜のようなものでして

わたくしはひとり東北弁で

どうにもなんねぇじゃ

と泣いてみたくなるのでございます


今は、睦月でございますね

弥生はまだ先でございますが、

桜の花が咲きましたなら

わたくしは、焦げた、最初は誰の持ち物だったかもわからぬ、でこぼこだらけの、穴があいていないというたったひとつの理由だけで、用をなしている、このアルミの鍋で

桜の花びらをたんまり煮て食べようと思うのでございます

ああ、それでも

わびしいことは

わびしいのでございましょうが

そうしたなら、

火も久しぶりの彩りににぎやかとなり

アルミの鍋が笑うような気がしてならぬのです

ほら、わたくしにはその声が今にも聞こえてきそうでなりませぬ


それはもう、病でございます

そう思うほどにわたくしは

アルミの鍋が楽しく嗤う様をみたくて

弥生の月が待ち遠しくてならぬのですから


桜は咲きましょうか

今年も







自由詩 わずらい Copyright 月形半分子 2013-01-24 05:24:58
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