氷原に舞う塵
まーつん

雲が僕を抱きしめてきた
その胸元には雨の匂いがして
雷を飼ったその腹が ゴロゴロと唸りを上げていた

みぞれが僕に口づけをしてきた
全身に冷たい唇を這わせて
シャツの下までびしょびしょにすると
道端の側溝を ざあざあと流れ去っていった

霧が僕を食べてしまった
歯のない口をモヤモヤと開いて
この身体を心ごと 景色から掻き消してしまった

針葉樹たちはじっと立ち尽くし
からすたちが梢で騒いでいる

そして 風が僕をまき散らした
見渡すばかりの氷原の上に
たくさんの白い煌めきが
陽射しを受けて燃え上がる

僕の粒子は
土に染みこみ
ミミズに頬張られ
木々に吸い上げられ
冷たい雪解けの水が流れる川床に 沈殿していった

人々が笑いさざめいている
毛糸の帽子をかぶり
マフラーに 赤く上気した頬を埋めて

氷原を歩く彼らの肺が吸い込む空気の中に
橇を引きずる子供らの産毛にとどまる塵の上に
雪の下に木の実を見つける小鳥の熱い腸に住まう細菌の中に

僕はいた

僕は死んで
世界の一部になった
だけどその思考は生きている

生きて考えている

凍てつく三月の山に立ち尽くす松の樹皮に潜り込む毛虫の細胞の一つとなって
暗い波を掻き立てる海流の懐に漂うプランクトンの一つになって
野を駆ける野生馬のたてがみにまとわりつく蚤の一匹になって

僕は考えている

憎しみから自由になり
優しさを忘れ果て
欲望の気配を感じ
恐れから遠く隔たった場所で

僕は考えている




考え続けている












自由詩 氷原に舞う塵 Copyright まーつん 2013-01-23 18:38:43
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