鶴の恩返し
salco

進歩は昔話を撲滅する

 あんたの事は食わしちゃる
 あたしが部屋で何しとるかは
 詮索せんといて
 覗きでもしたら出て行くきね

女房のオツーはそう言って襖を閉め
日がな何事かをする
百姓のヨヘーは朝が早いので先に休み
明け前に起きれば
湯気立つ朝飯を膳に並べてオツーが侍る
それからコビルの握り飯を持たされ
田んぼに出かけるのだった


長雨で稲が腐れ出した夏
オツーはJAの通帳と印鑑を
ヨヘーの前についと出した
三百万ほど入っている
 心配せんといて
 あたしがあんたを食わしちゃるき
そう言いにっこり微笑んだ

その秋は平年の三分の一しか収穫がなく
ヒマ持て余して昼間っから寝転び
情報ライブミヤネ屋を見ていたヨヘーの好奇心が起床する
何せヒマだもんで余計な思考がぐるぐると
加えて慢心と依頼心の申し子まーいいじゃんが後押しを
それで立ってそぉっと襖を…
女房が全裸でパソコン前に横たわり
スカイプ相手に見せていた


その晩飯どきオツーは言った
 見たねあんた
 あたしの覚悟も信頼も踏みにじりよって
 約束は憶えておろうが?
 たった一つの願いもぶち壊しよる
 そんな不甲斐ない亭主は要らんきね
 今日からあたしは独り者だよ

有り金持って女房は出て行き
風の噂では県庁所在地に出
警察で許可を取り起業した
業種は言うまでもない
自分への面当てだと思うことで
ヨヘーは自尊心を慰めている
無論そうではない
女という生きものは意趣返しなどしない
切り捨てた能なしなどには


自由詩 鶴の恩返し Copyright salco 2013-01-22 23:28:28
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