思い出話
梓ゆい
『ありがとう。』が飛び交う、広い浴室。。
「背中、流しますよー。」
くしゅくしゅと泡を立てて
労る様に背中を流せば
全身左麻痺のかずちゃんが呟く。
「お風呂に入ると、生き返るわぁ。。」
夜遅く家に帰り
少し温めのシャワーを浴びながら
一回りも二回りも若い私が呟く。。
「お風呂に入ると、生き返るわぁ。。」
それらはきっと、かずちゃんと私のシンクロニシティー。
鏡に映る姿は
かずちゃんよりも疲れて見える。。
限られた時間
手を握り返す、かずちゃんの細い腕
他にも、あったはずなのに。他にも、あったはずなのに。他にも、あったはずなのに。他にも、あったはずなのに。
ホカニモ、
アッタ
ハズナノニ。
その一つが鮮明で
シャワーを浴びれば
右足で身体を支え
手すりに掴まりながら
一歩・・一歩・・歩く
かずちゃんの重みが、のしかかる。。
「お風呂に入ると、生き返るわぁ。。」
身体の重みは
心の重みへと、刻まれた。。