思い出話
梓ゆい

『ありがとう。』が飛び交う、広い浴室。。

「背中、流しますよー。」

くしゅくしゅと泡を立てて

労る様に背中を流せば

全身左麻痺のかずちゃんが呟く。

「お風呂に入ると、生き返るわぁ。。」

夜遅く家に帰り

少し温めのシャワーを浴びながら

一回りも二回りも若い私が呟く。。

「お風呂に入ると、生き返るわぁ。。」

それらはきっと、かずちゃんと私のシンクロニシティー。

鏡に映る姿は

かずちゃんよりも疲れて見える。。

限られた時間

手を握り返す、かずちゃんの細い腕

他にも、あったはずなのに。他にも、あったはずなのに。他にも、あったはずなのに。他にも、あったはずなのに。
ホカニモ、

アッタ
ハズナノニ。

その一つが鮮明で


シャワーを浴びれば

右足で身体を支え

手すりに掴まりながら

一歩・・一歩・・歩く

かずちゃんの重みが、のしかかる。。


「お風呂に入ると、生き返るわぁ。。」

身体の重みは

心の重みへと、刻まれた。。




自由詩 思い出話 Copyright 梓ゆい 2013-01-22 01:46:49
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