日記詩
月形半分子

日記詩

(一)
真昼の銀行、キャッシュコーナーの長い列は
金にまつわる一喜一憂を分かち合うかのように寒いほど静かだ
これはまさに近代の儀式
笑っても泣いてもいけない参列者たちは
残酷な神が哀れな生け贄を選ぶ瞬間を
ただひたすらに恐れながらもこの儀式から逃れようとはしない
知っているのだ。一度離れたらもう二度とここには戻ってこれないことを
この儀式は隷属を願う者たちの哀しい祈り
その身を投げ出しては
100円硬貨に、千円紙幣に、一万札に
はいつくばるように永遠の隷属を誓う
真昼の銀行のひと隅で
生け贄から逃れられた者たちは
紙幣が機械から吐き出されるさまに恍惚としては
哀しい安堵を財布にしまうのだ
この今の私のように

(二)
今日は随分とまずい気分でコーヒーを飲んだ
あの古い写真のせいだ
あのケニアのコーヒー農園の写真パネル
あれこそが罪と罰のバランスが崩壊した象徴
カカオとコーヒーが生み出したものは飢えと難民と後は何?
それは世界がいまだに罪を認めないパラドックス
私が昼にコーヒーを飲むたびに
私が100円で板チョコを買うたびに
難民たちから故郷の土は遠ざかる
罪と罰のバランスが崩れた世界では
まっとうな土地などありはしない
あの枯れた土地は罰ではなく罪の所在だ
山のように増えたがゆえに打ち捨てられてしまった罪の所在なのだ

(三)
時々、人の幸せが心に痛い
生きるって事に勝ち組、負け組なんて仕切りができてから
時々、人の幸せが心に痛い
追いかけているのか、追われているのか
真空パックされる魚のように
私たちは綺麗にならんで生きているから
その仕切りがとてもよく見えてしまう
悲しいね
私はどうやら資本主義と
免罪符に成り果てた民主主義に
疲れてしまったようなのだ
そのせいか妙にアンニュイな気分だ
今もまた、日本の土地の売買なんぞ景気の傾向を気にしながら
日本人が本当の意味で日本の土に還らなくなってどのくらいたつだろうとか考えてしまっている
日本の土が日本人を忘れたら困るなぁとか
本気で思ってみるのだ







自由詩 日記詩 Copyright 月形半分子 2013-01-20 13:29:26
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