たぷたぷ
nonya
湯に首までつかると
毛穴という毛穴から吐息が漏れる
立ち昇る湯気が
表情筋をひとつずつ解体していく
たぷたぷ
あごの先端から始まった
温かいさざなみが
湯船のふちを円やかに乗り越えて
洗い場のタイルを舐めていく
たぷたぷ
自分の中にできた幾つもの結び目が
一斉に緩むものだから
未だに角が丸くならない記憶の破片が
ちらちらと垣間見えたりする
たぷたぷ
20年前に噛み締めた唇
12年前に舐めた辛酸
7年前に被った泥水
そして今日気がついた治りきらない掠り傷
たぷたぷ
たぷたぷ
そんなもの全部ひっくるめて
今のうちだけ許してしまおう
湯船に浸かっている時だけは
自分は呆けたつるつるの善人なのだから
たぷたぷ
たぷたぷ
たぷたぷ
何度も重ね書きした輪郭から
際限なく自分がはみ出して
世間の北風に縮み上がった魂が
ほんの束の間
元の大きさを取り戻す