遠い冬
月乃助


 雪の散りまどう午后
音の波もやみ 記憶の
時の 歩みは、さかのぼる

 冬のぬくもりらしきものが
わずかに溶けだして
軒下に細い指骨をつくった

 一尺ほどもある氷錐つららは、
きびしさを追いやる 安らぎの
澄んだ雫をおとす、

     どこかで 小さな箸をおく気配があった

「「 誕生日、でしたね

「「 うん、おねえちゃん わすれてた

「「 ほんと、ごめんね


 命日ばかりは けして忘れることがないのに
妹は、それでも 陽をうける氷のなかに
笑っている

 
 冬の青天や行雲 に
常緑の命をとじこめた
氷面に すべてが濡れた、濡れるにまかせ

 永い 永い 時の
心をみたすことのなかった 妹の好きだった「 Cherry 」の曲が
音色を奏でる

 京年の時

   心の栞は、はさまれたまま

お前の冷たい額にふれたこの指が、
氷をながれおちる 清らかな」その水滴を
手のひらに あつめる

 








自由詩 遠い冬 Copyright 月乃助 2013-01-19 18:46:39
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