元旦のこと
はるな


今年がはじまった瞬間には夫の寝顔をみていた。ちょうどその一年前とおなじだ。
消音にしているテレビのなかでは2012年がひっくりかえってあふれていた。


師走にはいつもよりいろいろのひとと会った。たのしくて、うれしくて、すぐに好きになってしまった。いつもそうだ。街も、色も、音楽も、女の子も男の子も、すぐに好きになってしまう。そのくせなじめない気持ちで立ち尽くして。
それに、十二月は、どうしてかみんないつもより色っぽくて、どきどきしてしまった。

気分の良い時間があって、気分の悪い時間がある。
生きている誰かと、同じことだ。
気分の良い時間があって、気分の悪い時間がある。
同じことだ。どちらにせよ過ぎていくし、死ぬまでは生きている。うれしくても悲しくても過ぎてゆくのだし、戻れない。手に入れても失っても、過ぎてゆくのだ。何も自分のものにはならない。
そんななのに、街にも、色にも、音楽にも、女の子にも男の子にも恋してしまう。そんなだからどこへもなじめない気持ちで、立ち尽くしてしまう。


眠っている夫の体温はばかみたいに高い。
テレビからあふれかえる2013年。うっすらと汗ばんだ額に顔をよせて、動物の匂いを嗅ぐ。母がかわいらしいメールを寄越すので、携帯電話の画面がつるつるとひかっている。
これから先、何人のおとこのひとの眠りを見られるだろう。
携帯電話の画面がつるつるひかって、それからまた暗くなる。
好きなひとから、でももう遠くしたひとからの電話で、ひかって、暗くなるのを、見ていた。もう一度ひかればいいのに、と思いながらみていて、そうして、そのあとはもうひからなかった。

それから、立ち上がって蕎麦を茹でていたら、夫がほんとうに犬みたいにひくひくいいながら寄ってきたので、笑ってしまった。
あんまりにもすべてが幸福で、身近で、ささいなことなので、わたしはこれを思い出せないだろうな、と思った。でも、思い出しながら、こうして、文章を書いている。



散文(批評随筆小説等) 元旦のこと Copyright はるな 2013-01-19 18:11:59
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