flower adjustments
水町綜助
必ず差し込まれる朝
その尻尾にぶらさがって
鋭利な朝陽の先端をつぶして出来た
鈍器のような昼の陽射しの中に
何度もなぐられては
巻き戻されてしまって
石は女のなかに
いくつもの錠剤と
かすかな焼け野はらの香り
それと、ちいさな紙切れは
緑がかった石を仄かに
ひらめかせては
夜という夜のあとに
必ず差し込まれる朝
その尻尾にぶらさがって
鋭利な朝陽の先端をつぶして出来た
鈍器のような昼の陽射しの中に
何度も撲殺されては
テープ
切ってやろうとおもってる
もうノイズ
入ってるし
デッキだって
吐き出すよ
そのうちね
このあいだなんて
かんじんなせりふ
切れちゃって
笑えるわ
すごく真剣なかお
くちだけ動いて
どんなせりふだったか
覚えてるわけないじゃない
風鳴りをアテレコしたら
おしゃれかも
岬の先で渦巻いてるやつなら
声みたいに
聞こえるじゃない
春に花が咲く
フラワーアジャスタメント
花に興味、ないけど
花の絵と
アクリルに閉じられた花は悪くなかった
そういえば昨日、タツクリをカリカリ食べてたけど
これ死んでんじゃんね
たまに頭とれてるのあるけど
うまいことやるもんだな
なにもかも水気を抜くとうまくいくの
長く
そのままでいたいなら
花だって
咲いたままがいいなら
そうするでしょう
または、描く
生きていると
水がいる
循環とかするなら
いいけど
たまに腐るし
花瓶のなか
ほっとくとドブみたいだ
すごく濁るなら
まあドブは好きだよ
写すし
透明なのに
死んでる水は
一番嫌だな
石なら
きっとそんなこともない
できるなら
ひかるやつがいい
安いやつでよくて
ポケットに入れとくと
いつのまにか無くしてるタイプのやつ
そんなのが
いいか
鉱物ひらめかせて
夜の小箱のなかで
なにがいいたいの
なにも口にしちゃいない
ってつぶやくけど
なんにも見えないから
見つけてしまった
採掘現場は
さわがしく
手にしたものは
落としがち
水浸しになって
冬が来て
凍えちゃったけど
はるみたいよ
どうやら
おいしいものたべにいったり
したかったな
ぼくたちのメインディッシュが
付け合わせみたいな
ひとくち含んだだけじゃ
なにとなにとなにが
あるいはこれとそれとあれも
なにがこの成り立ちなのかわからない
もうわからない
噛んでよく味わって
なんて言うけど
よく噛んでしまったら
もっとわかんなくなるじゃない
混ざっちゃって
行儀よく切り分けることを
知らない
イヌイットの解体を経験していないし
魚が切り身で泳いでる
なんてこともあったくらいだ
魚は砂漠を泳いでいて
動物は空を歩き
鳥は海を飛ぶ
ぼくたちは
満ちあふれた空気のなかで
えらをひくつかせ
呼吸の仕方を間違った
水族館にて
ジンベエザメを
青い水柱のなか
眺めながら
寒さに凍えていた
いや、肌寒さだった
女はうつくしいしろい顔を
青色に染めながら
カーディガンを肩にかけて
ただそばに座っていた
ぼくたちの目の前では
回遊する魚たちが
ひたすらに回り
一秒、一分を刻む針に逆巻いて
ゆっくり青をかき回していた
ぼくたちをとりまく
ひとつのパブリックな流れのなかで
その水柱のなかも
またひとつのパブリックだった
ぼくたちによって切り分けられた時間が
彼らの意識にない以上
そんなことはありえないことだったが、
相反する流れがぶつかるこの水柱の回りに
流れ出した垂直の流れが
ぼくたちを流しつくせばよいのだが、
それにはぼくたちは
すこしだけ流線形すぎた
ビックマウスシャークのホルマリン漬けよりは
夜が傾き
ぼくたちは
ドラッグを求めた
町のなかに氾濫しているはずだったそれは
見知らぬ町をどれだけ歩いても
ついに見つけることができなかった
路地を曲がり
斜めの坂をのぼり
マーケットを抜け
なお暗い渡り廊下をくぐり
燠が赤くひかる
焼け野はらを夢想したけど
それを見つけることはできなかった
ぼくたちは酒を飲んで
人々と話をして
道を尋ねては
いつもとかわらない夜を過ごした
赤い光の中で
引っ掻き傷のように
何本もの線に
輪郭をほどいて
踊るあなたは
過ぎ去った夏の匂いがした
ここにかかれたことは
ぼくたちのなんということもない虚実ないまぜの日常と
そのことをぼくがおもいだして
いくらか加工して書いてみただけ
というものだ
もちろんそれ自体、第三者のだれかにとって意味があるわけはないし
ぼくたちの過去を懐かしむものでも
後悔するものでもないし
ぼくたちの未来や、時間以外のなにか、を暗示するものでもない
まして、いま一字を書く、この瞬間をなにかになぞらえたものでもない
ただあるのは、ぼくがこの散文とも手紙とも呼べず、日記でもない文章を送ろうとしている女
そのひとに、いつものように
眉がしらをひそめながら
なきだしそうな顔をして
ぼくの目を見てほしいだけなのだ