怪奇 うさぎの大福大脱走
凪 ちひろ

夜明け前の6時、トイレに行った凪は、喉もかわいていて、
台所にお茶を飲みに行った。
すると、カサカサカサカサと耳慣れた音が聞こえる。
ハッとしてリビングに飛び込むと、そこには大福がホタホタと歩いている姿が。

唖然としてゲージを確認すると、ゲージにふたをしてある木組みの箱が落ちて、
すっかり出入りできる状態になっていた。
夜中に脱走した模様である。

一体いつから脱走したのだろう、
何かかじっていないだろうか(何もかじっていないわけはないのだが)、
と思いながらひとまず大福を小屋に入れることにする。

「大福! 大福!」と叫びながら追いかけるが、
そもそも寝起きの凪が、夜行性で当日絶好調の大福のスピードに勝てるはずもない。
加えて部屋の電気をつけるという発想も持てないほどにまだ寝ぼけていた。
慌ててつかもうとして、大福の目をさわりそうになってしまい、
ひやっとしたので作戦を変えることにする。


凪は三日前から大福にあることを仕込んでいた。
遊んでいる大福に、「ハウス」と言いながらドライフルーツの袋を振ってみせ、
一粒えさ箱に入れる。
そして大福がゲージに飛び込んで、えさに夢中になっているうちに、
小屋で入口をふさいでしまうのだ。

大福は、あまり頭がいいとは言えなかった。
一昨日から三夜試したが、三夜ともえさに夢中になり、
食べ終わってから、「あれ? 入口が閉まってる。 あれ?」と気づくのである。
凪は昨夜もこれをやり、「おまえ頭悪いねぇ」とつぶやいたばかりだった。


さて、当然のことながらドライフルーツをやることにした凪。
いつものように上手く大福を誘い込むことに成功した。
やれやれと思いながら小屋でふたをしようとしたとき、
既にえさを口に含んでいた大福は、
驚くべきスピードでゲージから飛び出したのであった。

愕然とした凪は「四度目にして学習したー!」と叫んだ。
ここで母登場。
「ちいちゃんなんでこんな夜中に大福放してるの?」
「放してるんじゃない!脱走したの。」
「ええっ」

母は、精神を病んだ娘が夜中に大福を放して遊んでいると思っていたらしい。
(凪は、真っ暗な部屋の中、
一人うさぎと戯れる自分を想像して背中を寒いものが走った。)


ともあれ、二回目のドライフルーツでなんとか大福捕獲に成功した。
(入った瞬間すかさずしめた。)

母は、慌ててリビングを確認したがどこにも被害は見当たらない。
安心して眠ろうとしたとき、ゲージの横の壁の角が、
縦に30cmかじられているのを発見した。

下の方は、普通にかじったのであろうが、
一番てっぺんはいくら大福が背伸びしても届く気がしない。
横にはえさ箱が置いてあった。
大福は昨夜、木組みの小屋からえさ箱に乗り移るという技を習得したばかりであった。


大福が壁紙の裏の石膏ボンドでお腹を壊さないことを願うばかりである。
ちなみに壁にできた傷をどうするかはまだ決まっていない(そのままかも)。

今日の大福はいつもより眠そうである。


散文(批評随筆小説等) 怪奇 うさぎの大福大脱走 Copyright 凪 ちひろ 2013-01-18 18:13:21
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