冬の回廊
Lucy

冬の薄暗い回廊を
渡ったところに教室があって
頭痛を抱えたままの君は
そこをめざして歩いていく

壁にはたくさんのテレビがついていて
音もなく瞬きながら
世界中のつらいニュースを
さかんに映し出すけれど

悲しむことも
怒ることも
上手にはできなくて

冬の薄暗い回廊をくぐりぬけ
やっとの思いで
たどりつくと
若い男の先生の 誠実な
地道な 辛抱強い
徒労の日々が
灯油の代わりに
ストーブで燃やされている

それはあかあかと
君たちの
冷たい頬や手のひらを照らす

カーテンが破られ
掲示物が剥がされ
黒板に死ねと書かれた悪ふざけの部屋で
甘え足りないまま大きくなった中学生が
蒸発皿に マヨネーズと
ケチャップと 給食の残飯と
黒板消しと
絵具と誰かのふでばこを
投げ込んでいる

君はそこで これから生きていくために
大切なことを
たくさん学ばなければならない

どんなにひどい世の中でも
希望を捨ててはいけないこと
どんなに嫌な奴と一緒でも
最低限認め合い
協力し合っていくこと
誘惑に流されないで
自立した意志を持つこと
自分勝手な友人とは
距離を置いてつきあうこと
嫌なことは嫌だとはっきり伝える勇気を持つこと
ほどほどとでたらめの境界を知ること
寛容さと 善悪のはっきりした基準を
同時に持ちあわすこと
意欲と理性をバランスよく持つこと
無駄な争いは避け
わかりあえる友だちを探すこと・・・

君の母にも
上手くできないことだらけだけど

君はそれでも
けさ 起き上がって
その回廊を
進んでいった

冬の一番深いところに
朝がくる

幾重にも重なった
分厚い雲のカーテンの濃いねずみ色が
ほんの少しだけ薄くなり
街灯の黄色い光が消えて
知らされる朝

雪をかいて
降り積もる疲労を
道端へ寄せて
積み上げて

私たちの日常は
それなりに懸命の形相で
冬の一番深いところに 沈みながら
息づいている


自由詩 冬の回廊 Copyright Lucy 2013-01-17 12:00:39
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