かりぬい
そらの珊瑚

赤いウミウシの模様であった
デパートの包装紙
それで母はちゃっちゃかと洋服の型紙を作る
かつて何かを包んだものの匂いがしていた

ヒトガタに切った人形が
夢のなかでトモダチになるように
平面であったパーツが
母の手のなかで立体になっていく
裁ち鋏がチャコペンシルの線路の上をざくりざくりと進んでいく
織り布の断面はやがてほつれてやわらかい

仮縫いであった
動かないで、と言われて
みじろぎしないで待っている
まち針
しつけ糸
糸を寄せればおあつらえのドレープが現れる
眼を閉じて魔法のかかり具合を確かめていた

どんなに平面な今だって
仮に縫ってみればいいさぁ

出来上がった洋服は
明日のために少しだけ大きくて
ウミウシの空気を含んでいた
始発駅であった
風の生まれる岬にて
わたしは包まれ
あたらしい中身になっていく


自由詩 かりぬい Copyright そらの珊瑚 2013-01-17 08:10:34縦
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