国境スープ
たもつ

 
 
国境線の上に魚が死んでいた
線に沿ってナイフで切ると
両方の国から猫がやって来て
半分ずつ咥えて行った
近くでは国境線を挟んで
男たちがチェスをしている
自分の陣地は真ん中まで
そこから先には入れない

祖父は国境線について
我々を守ってくれるものだと言った
父は大切な約束だと言った
祖母は綺麗事だと言った
母は寝室で一人 
昨日も泣いていた

線をまたいだテントウムシが
警備兵に右脚を撃ち抜かれた
男と女が国境越しに
愛の言葉を囁いている
触れることがなくても
伝わるものは
必ずあるはずだ

夕食だろうか
一足先に夜が来る向こう側から
美味しいスープの匂いがする




自由詩 国境スープ Copyright たもつ 2013-01-12 19:46:24
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