ふたり分。
元親 ミッド

海辺のね、小さなレストランに行ったよ。

行きたいお店があるんだよねってあのこが言うから

ふたりで出かけることにしたんだ。



近所のバス停で待ち合わせ

時間通りに来た僕を

彼女は笑顔で迎えてくれた。

「ごめん、待った?」との問いに

彼女は、ううん。と笑顔でくびをふった。

お互いに防寒対策はバッチリで

彼女の黒いダウンコートは、とても温かそうだった。



間もなくやってきたバスには

乗客は一人もいなくて

だからかえって、僕はドキドキしてしまう。

暗闇の街をゆくバスの窓には

街の灯りが映り込み

それがまばゆいミラーボールのように見えた。

「寒いよねぇ」とあたり障りのない僕の話題に

彼女は、当たり前でしょ、冬だもん。と

笑っていた。



天神でバスを乗り換え、更に西へと向かいます。

乗り継ぎバスがくるまでの時間も

ずっとしゃべりとおしていた。

なにをそんなにおしゃべりする話題があるんだろう?

と、不思議に思うけれど

これまた不思議なことに、会話が尽きることは無くて

僕たちはいつもにもまして話続けた。

ふと、僕らは、手をつないでるわけでもないのに

手をつないでいるような、そんな気がした。



西のとあるバス停に到着すると

そこは海岸沿いのへんぴな場所で

日も暮れた暗闇の中に

弱々しいレストランのネオンが見える。

そこまで少し歩かなきゃいけなくて

通り過ぎるタクシーを横目に

タクシー拾おうか。と僕が言うと

彼女は、あたし歩けます。と笑顔で言った。



海辺の小さなレストランに着いて

木製の古びた空色の扉を開くと

お店の中は、まぁやはりそれなりにこじんまりとしていて

ただ、その奥に、鉄製の暖炉があって

薪がパチパチと出迎えてくれた。

素敵なお店ね!と喜ぶ彼女は

その場で、小さく飛び跳ねる。

コートを脱いで、アンティークチェアーに腰掛けると

店主が現れ、メニューを手渡された。



メニューを僕にも見えるようにふたりの間にかざして

彼女はメニューを眺める。

彼女の目は、らんらんと輝いていた。

「色々あるねぇ」と悩む僕。

これにしなよと、決めてしまう彼女。

これって男としてどうよ?

優柔不断で、ダメなんじゃん?

僕はそう思っていたけれど

彼女は一向に気にしてない様子だった。

たぶん、性格を見抜かれているんだろうな。



料理を待っている間、先に出されたハーブティーを頂く。

僕らは、暖炉の赤外線に照らされながら

燃える薪が炎の中で輝きを放つのを

暫く黙って眺めていたんだ。

「きれいだねぇ」と僕が呟くと

そうねぇ、と彼女は相槌をうった。

「あったかいねぇ」と更に僕が続けると

うん、すっごく幸せ。と彼女は言った。



「お待たせしました」と店主が料理を運んできた。



いただきます!彼女はそう言うや否や

一口料理を口に運び、美味しい!!と絶賛した。

僕は、料理を口にする前に

ビールのボトルを傾けて喉を潤した。

暖炉の赤外線に暖められて、ちょっと火照った喉に

冷たいビールが流し込まれる。美味しい。

「冬のビールもありだなぁ」と言うと

彼女は、一年中飲んでるじゃない!と笑った。



それから、僕らは、お互いの料理をつつき合う。

これ美味しいねとか、今度これ作ってみようかなとか

そんな会話を織り交ぜながら

僕らはお互いに、お互いの料理をつついた。

「1人だったら、一種類しか食べられないけど

ふたりでの食事なら、色々食べれてお得だねぇ」と僕が言うと

だからふたりで来たんでしょ!と彼女はどや顔。

その表情が可愛くて、僕は思ったんだ。

「これからも、キミとずっと食事がしたい」って。



好きな人と、一緒にいるってことって

きっとこんな風に、独りでは1人分でしかないことを

ふたりで一緒なら、ふたり分楽しい・・・

そんな感じなんだろうなって

そう思ったんだ。


自由詩 ふたり分。 Copyright 元親 ミッド 2013-01-11 20:59:32
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