月形半分子

めでたいと言って飲むお酒の肴には、何があうのだろう
悲しみに酔いたい時に飲む酒の、肴は何がいいのだろう

終電車で故郷のお葬式から帰って来た夫が、ネクタイを解きながら
「蕗をちょっと頼むよ」
と、私に言った。
手荷物のなかを見ると、5、6個何やら無造作に入れてある。
手にとって見ると、それは土と雪の匂いを残したままの、固い固いふきのとうだった。
子供のように、一月にこんなものを採って来ておきながら、夫はもう酒を飲み出している。
「とても苦いでしょうね」
「うん、味噌で焼いてくれるだけでいい」
私はきっと天麩羅にするだろう。でもひとつだけ味噌で焼きもするだろう。
夫が亡くしたもののために。




自由詩Copyright 月形半分子 2013-01-10 23:12:53
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