使命
夏美かをる

「ママ!ママぁ!」

真夜中私を激しく呼ぶ声の元に行き
いつも通り右手を差し出すと
大事なお人形を愛でるかのように
それを自分の胸の前でぎゅっと抱き締め
再びすやすやと寝息をたて始める
この あまりにも弱く幼き存在

人の才能を羨み
人の成功を妬み
人の幸せを素直に喜べない
おまけに今日は
感情をむき出して怒鳴りつけ、泣かした
そんな半人前で醜い私でしかあり得ないのに
この 娘は、 
私の娘は
こんなにも、
こんなにも 私を必要としている

しっかり絡みついたままの
その小さな手を振り解くことができずに
しばし体を横たえていると
トクリ、トクリ…
私の右手を通じて
娘の心臓の鼓動が伝わってくる
その神聖なリズムに呼吸を合わせながら
今宵も窓の外で
私達をただ静かに見下ろしているはずの
月の形を思い描く

ふと考える
私が生かされている理由は
この子を護る役割を
天より授かっているからに過ぎないのかもしれない―と
それならば それでよい
若い頃あんなに求めても 
見つからなかった答えが今はある

トクリ、トクリ、トクリ…
娘の命が刻む確かな脈動を
私の全身で受け止める
云い様のない絶対的な畏れと共に


自由詩 使命 Copyright 夏美かをる 2013-01-10 14:20:11
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