動物園
Lucy

 埃だらけのコンクリートに影を焦げつかせ、
立っているひとりぼっちの後ろ姿を見つける
のに君がずいぶん手間取ったのは、二歳の子
には高すぎる太い鉄柵がちょうど君の視界を
遮り、そこからコンクリの床までは長い傾斜
と幅広い側溝まであって、そしてああうなだ
れて生気をなくしたあの姿は、走ることも吠
えることも、君を背中に乗せることもしない
あの生き物は、君が会いに来た象じゃない。
君が夢に見た友達ではない。呼んではいけな
い。あれは、君の知ってる象じゃない。また
君の知るべき現実でもない。君はまだ見なく
ていいのだ。まだ知らなくていいのだ。あん
なものは本当じゃないのだ。
「おおーい、ぞうくーん。」
 息子の呼び声に、その小山のような絶望が
今ゆっくりと振り返る。


自由詩 動物園 Copyright Lucy 2013-01-09 11:55:27
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