もっとも崇高な単純
ゆったいり


ぼくらが生まれたのが暗い色をした水の中だなんて僕は認めたくない
だいちを蹴って前に進めば
それだけ明るい色をした果実がもらえるんだと
ぼくらはいつから教えられたんだろう

水は雲になり
雲は雨になり
雨は水であり
水は氷になる
雨が嫌いなのも
氷が役に立つのも
それはにんげんの勝手だ

努力はなんのためにある?
夢をかなえるためなのか
理想に近づくためなのか
どちらも前に進むこと
どこかへ向かって走ること
ぼくらはどこに向かっているのか

君たちが走る先は桃源郷だと先生は言った
皆のために走るのだと偉い人は言った
あの人は桃源郷などなかったと言った
この人は皆のために命も心もすり減らして消えた

皆はどこに向かっているのか
おカネはモノを少しづつすり減らしながら、世界中を意味もなく回る
ヒトはココロをすり減らしながらそれを助けて
イノチをすり減らしながらその意味を問う

ひとはあまりに小さいものは見えないけど
大きすぎる物も見えない
ぼくらは舗装道路を歩きすぎて
もう土の道は歩けない
ぼくの目の前には、桃源郷行きの舗装道路が何本も伸びている
その横の看板の文字は、にじんでもうほとんど読めない

ぼくらはほんとうのことを見なければならない
雲のような観念に振り回されて心を削る人がいる
地球を削りながらコマのように回る経済に削り取られていく人がいる
社会の出す粘液に絡め捕られて生きる意味が欲しいと呻き声をあげる人がいる

ぼくはもう高いところになんか進んでいかない
水は低きに流れる
ねっこは低いとこにある
このせかいは単純な糸がたくさん絡まってできた、糸玉のようなものだから
ひとはかんたんなことのあつまりを
高尚で難解であると言う
この糸玉の世界を
だれもほどきはしないから
ほどけはしないとおもっていて
ぼくやきみがそれをほどいて
みんなにおしえてあげるなら
それは波紋のように広がって
その中からきっと一人は
編み直すべき人がいる


自由詩 もっとも崇高な単純 Copyright ゆったいり 2013-01-07 14:11:28
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