石の花あるいは山のサロメ
佐々宝砂

あの男はこちらをみようとしなかった
真っすぐなまなざしはただ至高をみつめた

わたしのうつくしい洞窟に散在する
瑪瑙 水晶 玉髄
わたしの配下にあるそれら輝かしい石の花々を
あの男は全くかえりみることがなかった

あの男の微笑のためにならば
石の花のすべてを山の持つ富のすべてを
わたしはあの男に預け渡したのに

けれどあの男はありもしないものをみていた
掲げた旗はありもしない風に吹かれた

だからわたしはあれをころし

みかげ石の台座に玉髄の皿を置き
そのまわりを水晶で飾りそこに首をのせ
それから旗を裂いて縫って
深紅のドレスをつくったのだ

わたしの配下で最も白い肌を持つものよ
いまだ白のなかの白でしかないものよ
石英よ こちらにおいで
なまぬるい血でおまえを濡らしてあげよう

血濡れたおまえは白を失い
かわりにさまざまな色彩を得るだろう
おまえはうつくしくなるだろう
瑪瑙も玉髄もこうやって色を得たのだよ

こうしてまたひとつわたしの国に石の花
きらめく冷たい花畑で
深紅のドレスをひるがえしわたしは踊る
双晶にうつるわたしの影と手をとりあって


自由詩 石の花あるいは山のサロメ Copyright 佐々宝砂 2004-12-21 05:04:51
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