国と硯
綾野蒼希

表情を持たない
洗練された兵隊の
一人一人に万歩計が渡される
例え一歩でも乱してはならぬ
足並みをそろえぬ者は
謀反人と見なすぞと
その国の君主は言う

場末のうらぶれた骨董屋で
私は見事に使い込まれた
怪しく黒光りする硯を見た
かつてその硯の持ち主が
そもそもどういった心持ちで
真剣に且つ献身的に
墨をすっていたか
目に浮かぶようだった

その国の君主は
その硯の持ち主に
一生を費やしたとしても
足許にも及ぶまい


自由詩 国と硯 Copyright 綾野蒼希 2013-01-03 13:36:07
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