夜と白 Ⅷ
木立 悟





あたたかい水が
空の左右を動いている
小さなうさぎの横顔で
あなたが花を見つめるとき


待ちくたびれた蟷螂が
透きとおりながら死んでゆくとき
涸れ川に架かる二重の橋が
銀に緑に消えてゆくとき


色を失くした苺の空が
ゆうるりゆうるり斜めに落ちて
高く空に照り返し
地を道づれに沈みゆく


緑の底に揺らぐ金
霧と陽 影を見上げる目
降る何か すぎる何か
その軌跡によって描かれる何か


蒼の音へ
歩幅は狭まる
月を捜して
見つからずに


追い払う手でかけらを拾う
夜と窓のあいだの
ひとつのしるし
空へ斜めに 遠のくしるし


息を潜め
息を飲み込み
雪が雪に触れるより早く
速く


橋の陰を 色と光が
脚を残してすぎてゆく
誰かの群れがひとりになっても
星は巡り 頬をひたす


曇を見た
降り立つ建物を見た
心も灯りも無く
音の手に引かれる人々を見た


器を受ける器には
どれほどの手と舌が在っても足りぬ
街も崖も埋めるほどの
雪や羽が在っても足りぬ


抜き差し抜き差し
樹は冬の縄を飛びつづけ
飛べないものから地に倒れ
白に白に染まりゆく


あなたはずっと横顔のまま
けして他を向くことはない
火を絶やさずに裸に倒れ
片目の夜を招びつづけている


































自由詩 夜と白 Ⅷ Copyright 木立 悟 2013-01-02 23:58:24
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