旅情より
HAL
結局 この国が失ったものは
任侠という精神だろう
任侠を暴力団に擦り代えることで
強きものを挫き弱いものを救うという
ひととしてしごく当然のことを
捨て去り邪険に扱うことで
多くのひとびとは不遜にも
任侠を否定することを善と呼び悦にすら浸る
その善がいつしかお年寄りに席を譲らず
ぶつかっても詫びの言葉ひとつも掛けず
なにかが起こるとだれかのせいにしたり
社会や政治のせいだと言うようになって
政治家だけでなく市井のひとも腐っていく
でもだれひとりとして反省や自省の言葉は
そのひとたちの辞書には載っていない
だが楽して得するあざましさには聡い
この国は多くの間違った途を選んできた
そしてまたしても同じ途を選ぼうとする
幸いにもひとびとは賢明だと想わない訣でもない
だけれど今回の選挙率は戦後至上最低でもあった
きっと行使しなかったひとは言うだろう
投票すべき党が見つからなかったからと
でもアメリカ映画《旅情》でデビッド・リーンは
キャサリン・ヘプバーンに向って
ロッサノ・ブラッツイにこう言わしめさせている
『ステーキが食べたくても、ペパロニを出されたらペパロニを食べなさい』と
※《旅情》の字幕訳は清水俊二氏の引用