男と女のにぎりめし
ドクダミ五十号




なんだか「にぎりめし」って気分しない?

粗塩を手にまぶして聞くなよ

「ああ、君の得意料理だからな」と返す

成立してるのか? 会話として

「おかずは?」と尋ねると

「アンタの冷蔵庫には選択肢が少ないのよ」と女

「何時もの事さ、今更言うなよ」と俺

「アタシ揚げ物はやーよ。だって跳ねるじゃない?」と女

「なに、オマエの肌くらいにしかピチピチしねえよ」と俺

暫しの沈黙であるが、怒気は充分であるを察知して俺

「おかずは俺が作るよ」と言って、五本で百円のちくわ

ボールに小麦粉を振るい入れて、あおさを加える

茶碗に生卵と水を入れて攪拌

ちくわは竹槍の先端の様に斜めの切り口にする

それをボールに投入し粉まみれにするのだ

「え?なにそれ」女は知らないようだ実は天ぷらとは蒸し焼きと

「いいかい、素材が直接油に触れない事が重要なんだよ」と俺

余分な粉をはたき落としながら俺は女との関係を考えた

「俺は粉まみれで窒息しそうなちくわに似てるな」

「直接的な熱から逃げて、蒸し焼きにされる」

「身を焦がす触れ合いは上品では無いけれど、蒸し焼きほど残酷じゃない」

思考を破る問いかけが女の得意技なのである

「ねえ?最初から衣を付けちゃだめなの?」

うんざりである 俺とオマエはインスタントじゃなかったろうよ

「黙って見ておけ」それが俺の答えだ

卵液を残りの粉に加える ぞんざいに混ぜる お構いなしに

不手際と思える事が 実は手際の妙なのだよ

油の温度は菜箸の先でわかる 今!

ちくわに衣をまとわせるのだ もちろん指で

静かに大胆にそのまま油に投入するのだ

女「えっ?指が油に!!」

「火傷はしないのだよ、感覚は逆で冷たいんだぜ」

体験した事があるまいな 黙っておれないほどに驚くのだから

指に付着した衣を熱に踊るちくわに浴びせる

「花が咲く」と形容される状態をちくわは呈す

「手品みたいだわ」と女は言うが 俺には当たり前だのクラッカー

俺は女に言う

「にぎりめしはオマエの担当だろう?さっさとにぎれよ」

一応まともに見えるにぎりめしだったので

俺は何も文句を言わない

「昼の分も出来たな、かぶが丁度良く漬かっているから切ってくれ」

糠床に触れるのを女は躊躇っていた

「いい事教えてやろうか、糠には美肌効果があって、触れば指が艶をますぜ」

そうして朝食は二人前 まともな皿が無いので カップ&ソーサーの

皿が使われたのだ 景色としてはチグハグだが それが面白い


女の握っためしは塩加減はともかく やんわりとしていて 朝に相応しかった





自由詩 男と女のにぎりめし Copyright ドクダミ五十号 2012-12-28 21:43:36
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