耳のない魚
月乃助

‐‐‐‐ 悪いゆめより その魚は生まれた 


風は
葦原のなか
老女おうなが こっくり
こっくり
囲炉裏に ゆれている


それは、川瀬の流れに ながされ ながされ
ながれつく


休むことなく 鱗を光らせ


子のときは、少女になろうと
少女のときは、女になろうと
次に 妻へ、そして、母へ
何かになろうと
心をくだいた


誰もが口にする
言い訳を小石のように 胸にしずめ
律令のような 決まりごとを
後生大事にしてきた


赤い焼ける炭のむこうで、

「 おまえさんは、百足
 いや、蛇かえ 」

「 いや、わしは、ただのヤマメじゃ 」


老女は、小箱をひきよせ しわくちゃの札に灯をともす
みるみる
福沢諭吉が、焼かれていく


それで、
タバコに火をつけ 紫煙をゆっくり 刷いた


燃えるのは、確かに紙
それが、本性という


価値をもたらすものは、縁という力・・・・・・・・


私は、その対価の玄米のKgや
支払いをもとめられる 光熱費を
それで救われる ユニセフのやせた子供たちの
明日の食を想う


婆さまは、私をながめ
みつめ 
つぎに新渡戸稲造の札を火にくべた


「 わかったから もう、わかったから やめれ 」



拓くのではなく
五感をとじ やさしく
やってくる すがたを想う
容をもたぬ水の 無色の 文字
私は、それで詩を
書いてみる

















自由詩 耳のない魚 Copyright 月乃助 2012-12-26 20:12:58
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