昼下がりの砂漠
wako

高い天井
絨毯に吸い込まれていく足音
息づかいさえ聞こえてきそうな静寂
ページを繰る音も
遠慮がちな小さな咳も
潮が引く様に遠のいて
異様な錯覚に陥っていく
あたりが歪んで
異空間に迷い込みそうな

分厚い写真集を机に置くと
思いがけず大きな音がして
ハッとする
ここに別世界が、と
表紙が

   かすかな水脈の上で
   タマリスクのピンクの花が
   咲いては、散って
   咲いては、散って
   悠久の時を刻んできた砂漠
   タクラマカン

   熱風が
   砂粒が
   理解できない言語が
   幻の様に
   空耳の様に
   押し寄せる

   砂に埋もれた故城が
   はるか昔の栄華の残骸をさらす
   ざわめきが聞こえてきそうな
      物売りの声が
      家畜の鳴き声が
      兵士の怒声が
   あふれる色彩に襲われそうな
      日々の生活の
      祝いの宴の
      収穫の祭りの
   引き込まれて彷徨いそうな
      市場を
      路地裏を
      広場を
   幻が脳裏にゆらぐ
      川を船が行き交っていた頃の
      小麦の葉がそよいでいた頃の
      湖に魚が群れていた頃の

   ラクダの白骨をたどって行き着く古代の街
   砂の中の楼蘭

遠くで乾いた音が

動物の骨が風に転がされたのか
書架にバッグの留金が当たったのか
耳を澄ますが
空調の低い音が聞こえるばかり

時間つぶしで
遊びで入り込むには不謹慎な気がして
図書館の椅子で姿勢を正す
写真集を前に

大窓の外の銀杏の木で
わずかに残った葉が揺れて
落ち葉を踏みながら
人々が足早に歩いていく

冬の昼下がりに      


自由詩 昼下がりの砂漠 Copyright wako 2012-12-25 15:15:24
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