コンクリートのすき間に
wako

雨上がりの用水路
垂直のコンクリートを
ハサミをふり上げながら
カニが器用に歩く
ご挨拶をすると
立派なハサミをさらにふり上げて
立ち止まった

   カニ君
   待って!
   お願いがあるの
   ちょっと聞いて
   もつれて、もつれて
   どうにもならない糸があるの
   とうとう糸玉になってしまった

   誤解と疑念の塊

   こんな時人間はね
   ため息ついて
   見つめるだけ
   あとは神様の領域の話だから

   ここで出会ったのも何かの縁
   ねぇ、切って
   プツンと切って
   そして
   もう一度つないでくれる?
   できるでしょう?
   ねぇ、カニさん

カニは赤い甲を心なし土色にして
あたふたとコンクリートのすき間に入ってしまった
あれ以来見かけた事はない
きっと図鑑の中にいて
呑気に子供達の相手をしているのだろう
自慢のハサミをふり上げたりしながら
子供達と楽しく過ごしているのだろう

カニには重すぎる話だった
コンクリートのすき間に逃げ込めない人間は
ついついお願いをしたくなる


自由詩 コンクリートのすき間に Copyright wako 2012-12-25 14:39:56
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