イブの街で
HAL

あれからもう何年の月日が経ったのだろう
昨夜 昔の約束事のように深夜0時に掛かってきた電話

そしていまクリスマス・イブの雑踏のなかでぼくはきみを待つ
やがて遠くからでも分かる背の高いきみと小さなこどもの姿

懐かしさもあり後悔も少し芽生えるぼくを見つけ
こどもの手をしっかりと握りしめながらやってくるきみ

やあと声を掛けてもきみの表情は凍ばったまま
結婚したんだねの問いにもきみは頷くだけ

お互いの小さな声を邪魔するかのように
どこからも流れてくるクリスマス・ソング

ぼくはビーチ・ボーイズのクリスマス・アルバムが好きだったけど
クリスマスにビーチ・ボーイズはおかしいとレノンを選んだきみ

風がとても耳に痛いけど訊かずにはいられなかった
歌に掻き消されないようにきみはいま幸せなのかなと

そうしたら今日別れたのと何となく分かっていた答え
でもどうするのかもぼくは訊かなかった訊けなかった

もうきみとのクリスマス・イブは終わってしまったこと
あの日のクリスマス・イブが最低だったことに胸が焼ける

だからほとんどきみにもきみの娘さんにも声を掛けず
あまり時間がないからとぼくはそこを立ち去ろうとした

そのとききみの唇がなにかを告げたかったかのように
ぼくには視えたしきっとそれは間違いではなかったろう

でもぼくは小さな女の子の頬に軽くキスをして踵を返した
もうビーチ・ボーイズのクリスマスは来ないんだと

だれにだって幸福なクリスマス・イブが来るわけじゃないと
長い人生だそんなクリスマス・イブもあるとコートの襟を立て

きみはきっとやり直したかったんだろうなと想いながら
ぼくは笑顔で賑わう街をだれも待ってはいない部屋へと帰る


自由詩 イブの街で Copyright HAL 2012-12-24 09:45:18
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