或る赤い星
レイヨウ
目を、閉じる寸前。
目の、覚めるような青。
「君は死ぬの?」
少しつり上がっている意志の強そうな目が
ボロ雑巾のような僕を見下す
このガキ、と眉間に皺を寄せる気力も無い
その代わりに
乾涸びた笑い声が2、3響いた
ここではないどこかへ
行きたいのさ
「どうして?」
心を殺して生きる生物なんて
人間くらいだと気づいたからさ
「それが理由?」
尤もな理由が必要かい
「いらない」
なら、いいじゃないか
不毛地帯に冴え冴えと揺れるワンピースの裾に
いつか夢に出た青いユニコーンをみた
「止めてほしいの?」
少女のまだ傷んでいない毛先が
肩に触れたり触れなかったりしながら踊る。
放っておいてくれ
少女はそのまま
僕に背を向けた
砂埃が少女を包んでも
その青は色褪せない
無垢とは、いやはや、力強い
棒切れのように細く白い足には
小さなかすり傷が無数に散らばっている
「君がお爺さんになったら
白いバッファローが迎えにくるよ」
少女の声は
水を失ったこの土地に
青々とした言葉を浸透させる
迎えになど来ない
僕はここですべてを殺すのさ
「殺せないよ」
殺せる
君はまだ幼いから知らないだけ
「しってる」
振り返ったその目には
海がみえる
森がみえる
街がみえる
人がみえる
思い出した
君は
「このちっぽけな惑星ひとつ
飲み干したら月においで」
少女は何にも使えないような
ビー玉を僕の手に転がした
遠く、
波がまたひとつ死んだ