溜息
レイヨウ



一瞬だったような気がした
永い一瞬のはじまりはじまり

鳩尾みぞおちに酷く重い鉛玉を撃ち込まれて
浅い呼吸で酸素を集め
二酸化炭素を深く吐き出す
この作業をここ数日ずっと繰り返している


恋だ。

自分の口から
とんでもなく安っぽい言葉が
転がり落ちた


私は、彼の歌に恋をした。



罪悪感と恐怖感が
あとを追いかけてくる
それでも
全身の細胞が疼いて求めるのは
彼というよりは彼の歌だ
彼の歌に潜っていたい


奥の奥まで。


彼が歌えば
彼の宇宙は私を易々と飲み込む
酸素はない
しかし何と綺麗な景色
雄大且つ繊細
極彩色を放てば
一瞬で無彩色の中へ放り込まれる


突き放されて、抱きしめられる。


大嫌いな自分が
自分の中心の奥深くから幸せだと囁く。
愛。



次の瞬間、殴られる。


そこに佇む嫌悪
抱える孤独
経験もないのに恋しい人肌

誰かに会いたくなるのに
誰かが居ない
誰かが云ってた
結局人間は一人で生まれて死んでいくのだと


泣き叫んだら、ここまで来てくれる?


誰かに向けて
あり得もしないことばかり
浮かんでは少し期待して
また蹴り飛ばされる
その繰り返し

懲りない
懲り懲り

でも満足できないから

ここに来て
確かに触れて
匂いを感じて
掴みたい

掴むって、何を
そこには彼が吐き出す
宇宙しかないのに

真空?


いつも今一掴み切れない私は
こうして魅力的な異世界に潜っていく

逃避癖。

画数の多さに魅了され
飲み込みきれない行間を黙々とみ続ける

滑稽。

振動数を拾い集めて
脳が揺さぶられて段々足が浮いてくる


さぁ、手を振って。  とは、いかず。


虚無感が付き纏う
穴の開いた傷口の端がぐずぐず痛む
ゆっくり、ゆっくり、
蝕んで


ふと、思い出す。

よく歌唄いは云う
僕の歌は、私の歌は、いつでも君の傍に。

傍にいるから何だ
寂しくないように、と?
それが何よりも寂しいことなのに
寂しさを突きつけてるのは
そういう言葉と貴方の歌なのに


高々歌じゃない。  とは、いかず。



中で膨れ上がるものが言語化されれば
ありふれた恋の歌が出来上がった
それが何よりの証拠
私は彼の歌に恋をした


挑戦することも出来ず
距離は保たれたまま
永い一瞬は、こうして続く


すべて抱えて
涙に変換することも敵わず
胸の鉛玉がまた二酸化炭素を生産する
それを吐き出す作業を
永い一瞬の中で繰り返す



ある冬







自由詩 溜息 Copyright レイヨウ 2012-12-22 00:14:22
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