現場。
元親 ミッド
雨が街を一斉に叩く音で目が覚める
億劫な、暗い灰色の朝に
独り、目をこすりながら時計を見た。
午前5時半。
雨が降ったって
雪が降ったって
強風に煽られて
凍えるほど寒かったとしても
関係無い。
あそこで闘いが、待っている。
泥と、コンクリートの粉
赤い鉄と、黒い油と、唸る建設機械たち。
間違いなく、そこは戦場。
油断が、死を招く場所。
職人と呼ばれる戦士たちが
毎日、そこにやってくるのは
ただ、単純に
生きる為。
食いつなぐ為。
それ以上でも、それ以下でもない。
選択肢など無い。
選択できるとも思ってはいない。
現実の只中で生きる。
闘いの中に生きている。
突然に、その日がやってくるまでは。
一昨年、しばらく一緒に作業していた
派遣の作業員が、近隣の別現場で亡くなった。
建設重機の事故だった。
その日の、事故の1時間後には
すぐに問い合わせの電話があった。
「彼の親類とか、現場ではなしてなかったですか?」
派遣の人物は、身元の分からない者が多く
結局、警察が調べたけれど
彼の身元は分からずじまいで
職場の関係者によって葬儀が行われた。
無縁仏として。
スナックでカラオケを歌うのが趣味だと語っていた
気のいいおっちゃんだった。
そうゆう場所だ。
現場というのは。
ここでは、勇敢であることよりも
用心深い事の方が、ずっと重要なこと。
ここでは、洞察力や、観察眼が
生き残る為の鍵。
事前に予測し、回避策を講じ
段取りが全てで、シンプルにこなす。
感情は、それほど役には立たない。
理想があれば、あるほどに消耗する。
正義?
なんだよ、それ。
そう聞けば、まるで望みが無いようにも聞こえるが
だからこそ、現場の人間は
必要な時には、協力し合い
共に闘い、そうして不思議な絆を紡いでいく。
共に闘い、共に現場を生き抜いた人間にしか分からない
そんな絆だ。
ガラが悪いって?
まぁ、そう言うなよ。
社会的に底辺のように思われがちな現場の世界は
その実、人間臭い、リアリティーにあふれた場所だ。
おふくろが言う。
「あんたを大学にやったのは、
そんな仕事をさせるためじゃないよ」
と。
ネクタイを締めて
天神の街をかっこよく歩いて欲しかったかい?
おふくろさん。
だとしたら、親不孝を許してくれよ。
俺自身が選んで、望んで
俺は、この戦場に立っているんだ。
コンビニで泥だらけの作業員を見かけても
変な顔をしないでほしい。
俺たちだって、キミたちと同じ人間だ。
ただ、不器用で
ただ、純粋なだけだ。