26歳の老後
komasen333




絡みつく糸が意図へと変わる朝に絞り出した最後の誠意



あの頃の自分と語る糸電話から零れてく無色の琥珀



社会人一年目の友が語り出す社会の壁の高さと深さ



入るなりずらっと並ぶ面接官その背景でゆれるプラタナス



盛大な空振りをして幕閉じた夏は今でも永遠の夏



この胸に迫る色彩しっかりと一色一色なつかせてゆく



翌朝の新聞開き探したがあの殺人もミジンコレベル



差し出した右手にスッと滑り込むポケットティッシュに残るぬくもり



駅前に先月できたパン屋から大切な何か漂ってくる



死の影を垣間見せる微笑に詩の花束を無言で捧ぐ



チャンネルの取り合いをしたリビングに"ぽん”と置かれた離婚届



大便が跡形もなく消えてゆく行方をじっと見つめる次男



返信の文面どこか寂しげで思わずすぐに電話する夜



一握りとわかりながら応募する大企業ほど筆記で落ちる



すらすらと当たり障りのない答え面接官に笑顔で渡す



面接で手に汗かいて演じきるこの自分とは何者なのか



同い年とは思えない目映さでシュートを決める海外組



エントリーシート延々書きながらこれでいいのか自問自答



持て余す時間を埋めるものはもう詩歌を書くことくらいしかなく



二十五で遠い老後の先取りをするかのようにひきこもり続く



才能がないとつぶやく労力は惜しまぬくせに努力は皆無



平日の真っ昼間から両親と外食のため助手席に乗る



しわくちゃに稟議書丸めゴミ箱へ投げてはみるが入らぬ夜更け



挿しかけのコンセントへと伸ばされる仔猫の爪が土曜を暗示



ベランダでスキニージーンズ持ったまま飛行機雲を見送った春



降りしきる花びらを見て思い出すあの雪のなか来てくれたこと



片隅でちらちら揺れるホコリたち見て見ぬふりでいなす月末



読みたくて仕方がなくてそそくさと仮病を羽織りバイト早退



買ってきたばかりの白い炊飯器しずかに和室で映えて魅せる



頬杖の魔力を知らぬその人にか細き声を滲ませた夏



コンビニへ出かけるように今月も父は薬をもらいにゆく



無駄のない朝焼けを見る横顔は一人残らず綺麗な一重



お土産の芋羊羹を不味そうに食べつつ義父は無言貫く



「さらば」だと敬礼する甥っ子に背筋を伸ばし敬礼返す



宝くじ買う余裕などなかろうとこのサンダルは言うこと聞かず



冷えきった両親の仲をほんわかと取り持つ我はまさに鎹



海岸に打ち上げられた亡骸にかつての鏡を重ね欠伸



誰のせいにもできぬまま海原でニートは今日も似た者探し



何もかも壊そうとしてキーボード叩いてみるがアクセスは0



穴が空き捨てようとした靴下を重ね履きする冷え性の祖母



取り立てて不安も不満も見当たらぬ時代が続くそう信じてた



やかましいネオン街をすり抜けて深呼吸する発電所



外面を磨いて磨いて乗り越えた果てに流れるせせらぎ黒く



もっともらしいことほどしっくりと来ない思春期sora見上げる



五感に触れるすべてが七五調になりたがる朝に飲むコーンスープ



くるくるとバトントワリングのようにスプーンからハチミツ垂らす



買うほどの本ではないと言われてもそっと手に取るベストセラー



心にもないこと平気で連ねてはシュークリーム五つまとめ買い



中華屋の前でキミが笑ったら明日もきっといい日になる



翻る洗濯物を見つめれど転調らしい転調は来ず




短歌 26歳の老後 Copyright komasen333 2012-12-20 11:40:15
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